「本当の戦争の話をしよう」雑感。

「本当の戦争の話をしよう」を読み終えました。
ティム・オブライエン著作。村上春樹訳。

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)


ちょうどタイミング的に村上春樹ノーベル文学賞を取るかな?とか思ってたんですけど、逃しましたね。
まあ遠くない将来に取ることでしょう。

最近、戦争に関する小説を書いていたこともあって、
戦争を取り扱った小説やらエッセイやら読んでたんですけど、
この本が一番しっくり来たかな。
というか、ここ1年で読んだ全ての本のなかで、この本がいちばん面白かった。

「本当の戦争の話」というのは、教訓的ではないんですよね。
教訓的な「本当の話」は、むしろ疑ったほうがいい。
「本当の話」は、
どちらかというと痛々しくて、目を背けたくなるようなもので、
ときどきオーバーで、一見すると嘘のようにも思える。
でもそれが、本人にとってのリアルなんだ。

本書の最後が、初恋のときの女の子が死んだ話で締められていたのもよかった。
それは、「なぜこの作品を書いたのか」という問いに対する答えにも繋がるし、
そもそも「なぜ小説を書くのか」根源的な問いに答えを与えるものにもなりえる。
小説を書くということは、死者を蘇らせることだ。
できなかったあの行為を実現することだ。
自分を描くことで、自分を自分から切り離し客観視することで
過去を終わらせる行為だ。
「戦争の話」から始まって「小説を書く意味」にもつながっていたのが面白かったし、
自問自答している自分の昨今についてタイムリーだった。

文章自体がかなり面白かったですね。
ティム・オブライエンの文章もそうなんだろうし(村上春樹があとがきでいうには「あまりうまくない」とのことですが)
村上春樹がそれを存分に生かしてる感じがします。
わりと説明文文体で、それは一般に小説では「してはいけないこと」とされてるんだけど、
ルールなんかまるでものともしない。
いい小説ほど、してはいけないとされていることを迷いなくかましてくるというのは
他の名著でもよく確認できたことでした。
自信があるんでしょうね。
そして、その自信を支えるだけの技術もある。

読書として、読んでいて本当にわくわくして楽しい小説だったし、
「こんなふうに書いてもいいんだ」と勇気を与えてくれる一冊でした。
執筆に迷いある今、この小説を読めたことを幸運に思います。