「BUTTER」(柚木麻子)雑感。

柚木麻子の「BUTTER」を読み終えました。

BUTTER

BUTTER


2017年上半期の直木賞候補作ですね。
ちなみに、選評では結構ボロボロに書かれています……。
http://prizesworld.com/naoki/senpyo/senpyo157.htm
といっても選考委員が
浅田次郎伊集院静北方謙三林真理子桐野夏生宮部みゆき東野圭吾宮城谷昌光高村薫という
錚々たるメンツですからね……。
このひとたちに「設定の甘さ」を指摘されたらもうしょうがない。
少なくともわたしには設定が甘いとは全く思えなかったし、バターのようにどっぷりはまっちゃった。

ていうかなんで柚木麻子読もうと思ったんだっけ?と思い返してたら、
メール整理してたときに思い出した、キリチヒロさんに「固有名詞の使い方が巧みだから読んでみて」と
推薦いただいたのでした。
そのときに推薦してもらったのは「終点のあの子」だったのですが、
ホカホカの直木賞候補という縁もあり、先にこちらを読むことに。
良作を紹介してもらえるのはほんとありがたいことです。

で、「BUTTER」。
冒頭、というか走り50ページくらいが、かなりもっさりとしてるんですよね。
読むのを止めようかと思っちゃうくらい。
でも、筆が乗り出してからがやばい。
次から次へと現れるドラマチックな展開にどんどんのめり込んじゃう。
ちょっと前にツイッターで「良作は書きはじめから優れてる」という説を見ましたが、
そうでもないかな、と思います。
最近読んだ「沈黙」もそうだけど、ハイギアードに設定されてる作品はいくらでもある。
逆に、冒頭だけ面白い作品は、同人誌に多い気がしますね……閑話休題ですが。

「BUTTER」は展開の面白さも目を見張るんですが、
他に注目したいのは、料理の描写力。
「BUTTER」というタイトルだけあって、バター醤油がけ御飯を皮切りに
バターを使った料理がたくさん出てきます。
それを作ったり食べたりする場面に費やされる描写力が神がかってる。
もう、料理に対する描写じゃないですもん。
一番これやべーなと思ったのは
「セックスしたあと、深夜に独りで食べるバターラーメン」
ですね。
セックスの場面からラーメンを食べる場面まで、本当にほんとうに美味しそうに描かれてるんですよ。
そんなん食べたくなるに決まってるやん。

人間の描写も優れてて、特に主人公とその友人の間の百合的な展開が面白かったかな。
女性同士の同性愛を描いてるから、百合といえばそうなんだけど、
もっとジャンルを越えた何かな気がする。
ある意味でBLといえる「きらきらひかる」を読んだときも思いましたが、
良作はBLとか百合とか、そういう、ジャンルを越えたところに存在する気がします。
むしろジャンルは言い訳とすら云えるのかもしれない。
これはそういうジャンルだから……というエクズキューズ。
すこし前、LGBTの人口比率を調べたことがあるんですが、全然資料が無かったんですよね。
いわく、LGBTという区分けはすごい曖昧なんだって。
あるひとはLであり、Bであり、時にヘテロである、そういう現象が往々にしてあると。
LGBTというのは個人に定義される概念ではなく、そのときどきの関係に基づいて定義されるものなのかもしれませんね。
だとすれば、小説に描かれたときに個人というレベルではそれが曖昧に描かれるというのは、
よりリアリティをもって迫る気がします。

あとはミソジニーを始めとした社会派なネタや、ミステリー要素を多分に含んだ展開も、
ページをめくる指を加速させるものでした。

一言、おもしろかった!
バター醤油がけ御飯食べてみたいです。
小説を読むことによって現実が影響を受けるというのは、
ほんとうの良作だけが与えてくれる小説の醍醐味だと思います。