「抱卵期」(栗田有起)感想

読書は単著を優先してるので、未読の文芸誌が増えてしまいました。
でも文芸誌読むの大好きなんですよ。
いろんな作品が載ってて、合わないのもあるけど
だからこそ好きな作品を見つける機会になるよね。

というわけで今更なんですが、文學界の4月号を読みました。
だいぶ前だな!

今日読んでヒットだったのが栗田有起の「抱卵期」。
栗田有起氏、10年前に3年連続で芥川賞候補になってるんですね。
10年の歳月が文体や描写にどう影響したのか分からないけど、少なくともこの作品
すごくよかったです。

女性的な文体だなーと思ったら、やっぱり女性だった。
ティーカップのブランドや形がどうとかこうとか、
細かすぎる描写が入るの、すごく好き。
ちょっと変態的・偏愛的なくらいまでに書き込んでほしい。
昔、漫画を持ち込んだときに編集者に言われた
「一流は背景で内容を語る」
という言葉を思い出しました。

テーマもよくて、「抱卵期」という表題が示すとおり、
「他人の受精前の卵子を卵巣内に一時預かり、妊娠しやすいよう成熟させて返す」
架空の仕事を扱った作品です。

抱卵期は他人に会ってはいけないとか、細かい設定が書きこまれていて
純文学指向の文學界に掲載されてはいるけれど、どちらかというと大衆小説・エンタメ寄りの作品。
妹の卵子を預かるくだりや、母も同じ仕事をしていたことを知るくだり、
引き付けられる魅力的な展開が豊富。

「生きるってうんこだよ」
「抱卵中ってさ、たったひとりで革命起こしてる気分だったね」
「親は卵を選べない。卵は親を選べない。あたしは仕事を選べない」
ぐっとくるフレーズが台詞内に見られるのも、エンタメ作品に近いものではないかな、と。

読書して楽しいな、本が好きだな、と思える作品でした。
読むことや書くことについて前向きになる。