「キスとレモネード」(彩村菊乃)雑感。


「キスとレモネード」というタイトルも、表紙も、
かわいらしいので、正直最初、
「何が純文学だコノヤロー!」
と思ってた……すまん。
しかし開いて読んでみると、
たいへん美しい純文学だったので恐れ入る。
「純文学」というよりは、「純度の高い文学」というべきかもしれない。
お酒でいえばウォッカとかジンとか、そのへんだ。
読んでスカッとしちゃえ。

「キスとレモネード」は、
「緑のまにまに」
メルトダウン
「夜に溺死」
ソーダ水の午後」
の四篇からなる短編集。
なんというか、書き込みが丁寧なのだ。
描かれているものへの愛着を感じる。
僕の好きな都都逸
恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす
というのがあるんだけど、
彩村さんはその蛍のように、彼女がきっと愛している対象のことを
声に出さずただひかるように、丹念に描いている、気がする。
それを読んでいて、美しい、と感じるのだと思う。

「緑のまにまに」「ソーダ水の午後」の二篇が特に好き。

緑のまにまに、は、
主人公とその彼氏とが植物園で過ごす何気ない日々が
淡々と描かれている。
エッセイに近いかもしれない。
萌緑色の夏くさい「あたりまえのこと」がゆっくりと心に染み渡ってきて、
とても豊かな気持ちになる。

ソーダ水の午後」は、
幻想風のお話。主人公が、ふしぎな女の子と海に行く話。
夏ってね、そうなんだ。すこしおかしくて、生と死の境があいまいになって、
何処かに行ってしまいそうになる。
何処か、というか、行き先は海しかないんだけど。
主人公と女の子が海を見つけたときの描写がとても淡くて、やさしくて、
ああこういうふうに海を見つけたいな、と思ってしまった。
言うてる間にもうすぐ夏が訪れるので、今年はこんな海に出会えるだろうか。

夏が楽しみになる一冊だ。

「キスとレモネード」は、6/18まで大阪の西淀川で開催している
「カマタまで文学だらけ」でも取り扱っています。
よかったらぜひ、見ていってくださいね。