「しんせかい」(山下澄人)読了。

しんせかい

しんせかい


文藝春秋買って芥川賞受賞作「しんせかい」(山下澄人)読みました。

最初に選評を読んで「ほーん」と思いながら
続いて本文のほうを。

ああ……なんか……
誓ってディスじゃないんですが、言葉を選ばずに言うと、
「どうでもいいくそつまんねー作品」だな、と。
うわ、いうてもた。

ある人が
「純文学なんてつまんないですよ。
でもそのつまんないものを読みたくなることがあるんです」
と言うてはったんですが、その意味が分かった気がします。

つまんない。けど。すごくよかった。

純文学って人間のどろどろした内面が書いてあるじゃないですか。
特に主人公が10代の男子だった場合、
「10代の男子なんか馬鹿だから、
寝ることと食べることとやることくらいで
そんなごちゃごちゃしたこと考えてねーぞ」
と思うことがあったんですが、
「しんせかい」ではそんな違和感がなかった。

ああ、なんもねーくそつまんねー10代の男子の視点が
しっかり書かれているなあ、と思った。
あっさり言ってるけど、めちゃめちゃ難しくないです?
「なんもないことを書く」のって。

小川洋子が選評で
「ここに文学があるはずだ、と皆が信じている場所を、
山下さんは素通りする。言葉にできないものを言葉にする、
などという幻想から遠く離れた地点に立っている。
そこから見える世界を描けるのは、山下さん一人である」
と書いていらして、この言葉はいまいち理解できないんですが、
山下澄人しかこの世界を書けないのはそうだと思うし、
この小説を読んでよかったなと思います。

ちなみにこの小説は、山下澄人私小説、だと思います。
19歳のときの山下澄人を素材にした作品。
吉田修一が選評で
<19歳の空振り感と、それが今の自分をどれだけ豊かにしたか気づく50歳>
みたいなことを書いておられるのですが、
それはとても希望のある言葉だなと思います。

あと、この作品、登場人物がとても多いんですよ。
それを「書けないから」という理由で削るのではなく
「実際にいたから」でしっかり書き切っちゃうのがよかった。
人物の見分けはつかないんですけど、
それは書けないからじゃなく、書く必要がないから、ではないかな。
現実、いるけど書く必要のない他人というのはいますから。

芥川賞受賞作であんまり好きな作品はないんですが、
個人的には今まで読んだなかでベストでした。
(候補作も入れたら「ジニのパズル」のが好きですが)
純文学っていいね。書けないけど。
世界に耽溺できる至福の読書でした。