「かわいそうだね?」(綿矢りさ)読了

綿矢りさの「かわいそうだね?」を読み終えました。

綿矢りさの主な年表としては

『インストール』(2001年)文藝賞 17歳
蹴りたい背中』(2003年)芥川賞 19歳
『かわいそうだね?』(2012年)大江健三郎賞 28歳

こういうので年齢って意味がないと思うんだけど、
綿矢りさはその点においてもフォーカスされる作家だと思うので
併記しておきます。

で、大江健三郎賞を最年少で取ったのがこれ。
『かわいそうだね?』


『かわいそうだね?』『亜美ちゃんは美人』の
二篇が収録されています。

表紙もそれを物語ってると思うんだけど、
強く女性的な感性で書かれた作品だなーと思いました。
綿矢りさの作風なんだろうか。
作家ってよっぽど熟達している人でなければ
得意分野とそうでない分野とで筆致の精度に明らかな差が出ると思ってるんだけど、
綿矢りさは女性の心理描写を書くときにだけ異常に筆が細かくなってる気がする。

狂っている人が出てきたり、人の狂っている様がよく出てくるんだけど、
それは書く必要があるのかな、と思った。
物語にエンタメ的な魅力を与えるため、無理に入れているように思う。
それは「素の描写や文体だけでは勝負できないから」という「自信の無さの表れ」ではないだろうか。
実際に実力がない人がそれをやるのは分かるんだけど、綿矢りさほど地力のある人なら
普通に書けばそれだけで良作になると思う。
今の綿矢りさの状況を知らないので完全に邪推になるんだけど、自信を失ってるのかもしれないな、と感じました。
文体も、そぐわないユーモラスな文体が混在してたりして、キャラを把握していない芸人みたいな迷いが窺える。

ちょっと前にもブログで書いたけど、「狂い」を書くのはいいよね。
それももともと狂ってる人を書くんじゃなくて、まともな人が狂う様を見るのは、ぞくぞくする。
そうなる瞬間の空気が変わる感じね。

展開のさせ方が巧い。
素直に展開させると読んでて飽きてしまうので、
変化をつけた角度から、かつ読みやすく自然に展開させるのが巧い。

綿矢りさは読んだことなかったので、読んでみて面白かったです。
「女性的な感性」と云って失礼に当たらないといいんだけど、香水の匂いが漂いそうな魅力のある本でした。