「こちらあみ子」(今村夏子)読了。

某信頼のおける作家に「おもろい純文学作品をくれえ!」とかみついたところ、
いくつか面白そうな本を紹介いただきました。
しばらくは執筆ばかりで読めてなかったんですけど、
賞への投稿も無事終わったので、少しずつ読み進めています。

最近読んだのがこれ。「こちらあみ子」。

「最近読んだなかで一番すごいと思った本」みたいな感じで
紹介してもらったと思うんですけど、うん、納得。
太宰治賞と三島由紀夫賞を両取りした話題作。

描写が繊細で、構成がしっかり練られてて、という
僕好みの作品(そういう作品はエッセイとか私小説に多い)なんですけど、
それらに奥行きをもたらしているのは主人公・あみ子の人間的な魅力。
帯に書いてあった「読むと、きっとあみ子のことが忘れられなくなる。」という言葉もうなずける。
おかしなあみ子が魅力的すぎて、彼女の風変わりな視点と、奇想天外な行動と、折り合いつけられない周りの反応を
書いてるだけで、面白い小説として成り立ってしまうよね。
人間描写にドライブされる純文学というジャンルの好例。
本人含め周り含め、あみ子に関する描写が卓越してるんだけど、
作者のまわりに「あみ子」はいたのではなかろうか。
登場人物広島弁だし(作者は広島出身とのこと)

詩情について。
頭がぼーっとするような浮遊感を「詩情」と呼ぶのであれば、詩情がたわわに豊潤した作品です。
詩情って、描写を端折ることで生まれるものだと思ってたんだけど、
ここまでしっかり書き込んでも詩情は出せるもんだな、というのが発見でした。
描写や文体由来の詩情ではなく、人物や世界観由来の詩情というべきか。
最近できるだけ書きたいものを細かく描写するように意識している一方、詩情も出したいので、
その点において背中を押してもらえた気がします。

というわけで面白かったです。大満足。
人間を書いてるという意味では「純文学っていいなあ」と思える作品でした。
(まあこの作品はエンタメ的なストーリーの魅力もあるので、特例かもしれないけど)