「さよなら」(こんにゃくさん(現:みなもとはなえさん))感想

というわけで(いつもこれ言ってるけど、どういうわけなんだか)
こんにゃくさん(現:みなもとはなえさん)の「さよなら」を読みましたよーよー。

「さよなら」はもう在庫切れで売ってないような気がするんですが、
別の新作があると思うので、作風の参考になれば。

みなもとはなえさんは昨年の文フリ大阪での投稿企画とか、
あとその時に買わせてもらった「ビオトープ」ていう本から知っているのですが、
第一印象としては「すごく美しい文章を書く」ひとというもの。

ビオトープ」が2013年の本で、この「さよなら」が2014年だから、
たぶん一番新しい本になるのかな。



すごく素朴な感想から言わせてもらうと、すごく面白かったですねえ。
描写が丁寧・的確・繊細で、読んでても目が滑らずに言葉がそのまま入ってくる。
あんまり言わないほうがいいのかもしれないけど「早くプロになってどうぞ」とこっそり思っている。

本書は下記の4作品からなります。
セレンディピティ
・CHILDREN
・聖家族
・さよなら

セレンディピティ
文フリ大阪のときも読ませてもらったので、1年の空白を置いて久しぶりの読書。
やっぱり面白かった。
紅茶やピアノといったモチーフに連想されるロマンティックな作品。
石渡さんと関係をもつところが緊張感あってすごくいい。
オチで伏線を回収しきれてない感じはしたけれど。

■CHILDREN
この作品もそうだけど、みなもとさんって畜生を書くのがすごくうまい。
畜生の心理描写を書くときに、表現の解像度が一気に細かくなるし、精度もぐっと高くなる。
それはみなもとさんが畜生だからなのか……本人に怒られそうやが……。
一般論にしていいのか、作家は畜生のほうが向いている気がする。
何故かというと、畜生は自分の中ですごくいろいろ考えているから。
周りの人やもののことをすごく細かくみて解釈しているから。
(注:「畜生」という言葉は「性格の悪いひと」の意味でとらえてください。。ネットスラングです。。)
この物語の主人公も畜生なんだけど、世界にひとりしかいないその「人間」が説得力ある形でしっかりと書きこまれてる。
さらに物語を面白くしてるのが、畜生のまわりの人間がいいひとばっか。
これで物語の構造に立体感が出る。
付け加えると、みんななんだかんだで畜生が出てくる話を読みたいと思うんだよね。
最後、物語が救われないところも含めて、後に残る作品でした。

■聖家族
これ、本書「さよなら」のなかで一番面白かった。
先ほども触れた「畜生への筆致」という強みがこれでもかというほど出た作品。
付け加えると、みなもとさんは狂気的な題材を扱うのがうまい(これは私の個人的な好みもあるが)。
これらがエッセイ風に書き流した文体とマッチして、世界に入り込まされた。
物語後半の、サグラダさんとのキスシーン。
「聖家族」という表題にふさわしい、このうえない美しいキスシーンだった。
畜生(描写)+狂気(人物)+エッセイ(文体)、という点は、みなもとさんの長所なのではないかな。
繰り返す。すごく面白かった。

■さよなら
これは逆に、みなもとさんの長所が生きてない気がした。
みなもとさんにしか書けない作品という感じがしない。
BL、ということで男の子2人が主人公なんだけど、
男の目から見ると、心情とかの描写量が足りてないように思う。
ほかの作品がしっかり描かれているだけに、ギャップを感じてしまった。

みなもとさんに向けて半分、読者さんに向けて半分、それぞれ提案と紹介を、
というつもりで書いたはずが、単に「また新刊を読みたい」というエゴで書いちゃったかもしれません。
正直な感想です、ということと、すごく面白かったです、ということを最後に書いておきます。