「幻視コレクション」読みました。

「幻視コレクション」を読んだので感想を書きます。
キンドル版で読みました。

「面白い物語を集めました」という帯をつけ
雲上回廊さんから出版されているこの書籍。
現時点で、茶・緑・赤の3巻が出ています。
続編も続く模様。

アンソロジーというのは難しくて
少なくとも好みという意味では「当たり」「外れ」は混在します。
もちろんこの本についても例に漏れず。

クオリティという意味では、緑が抜群に高かったと思います。


それぞれについて感想を書きます。

幻視コレクション 失われた一葉の架空 (回廊文庫)

幻視コレクション 失われた一葉の架空 (回廊文庫)


茶色。

「Burning with Desire」はるかかなたさん。
茶色の中では一番面白かったです。
最初は展開が重いのですが、加速度的に面白さを増していき、
丁寧な文体でぐいぐい読まされる。
ただ最後は、無理やりに落とした印象を受けました。
複数ある可能性の中で、もっといい締め方があったのでは。

「XMS/eXperience Management System」佐多椋さん。
文章はきれいで読みやすいんだけど、不思議と頭に入ってこない。
自分事化できない文章は何か強力な引力を感じない限り距離を取ってしまう。

「たしか、映画でこんな話があった」吉永動機さん。
うーん、何を残したかった話なのか分からないまま終わってしまった。

「残った夏」言村律広さん。
ファンタジーの世界にうまく入れなかった。
書き出し目の一行目に見慣れない言葉があると、身構えてしまう。

「invisible faces」高村暦さん。
するすると読める。
でも書くべき事柄に対して、書かれている事柄が踏み込めてないと思う。
高村暦さんの文章はいくつか読んでいるのだけど、
昔の文章のほうが怖いもの知らずでよかった。
今のは「小説」とか「作家になる」とか「生きる」とかそういう恐ろしい
踏み込むと戻れなくなってしまうようなものに対して
切り込みが足りないと思う。あまりに惜しい。

幻視コレクション 想い焦がれる追憶の行方

幻視コレクション 想い焦がれる追憶の行方


緑色。

「お返しにはペンシルパズルを」水池亘さん。
面白さだけでいえば、緑の中で1番か2番くらいに面白かった。
絶対的な尺度として「すごく面白かった」と云ってもいい。
文学の純度が高いエンタテイメント。
読みやすくしているからだろうけど、理系でゲームに詳しい人間が読んだら
違和感を覚えたり、物足りなく感じると思う。
特に後半の、オリジナルの部分にその傾向が顕著。
その失速した状態でオチを迎えたように感じる。

「カインの神様」鳴原あきらさん。
文章自体に味と面白さがあって、読んでいて楽しい。
細かいところまで描き込まれていて、好みの文体。
完全に好みの問題として、サラリーマンモノは意外性がないから好きじゃない。
この作品も例に漏れず。

「シャーロットに薔薇を」渡邊利道さん。
ファンタジーはうまく世界に入れなくて読めないことが多いんだけど、
これはするっと入れた。
情報の展開のさせ方が書き出しからすごくうまい。
文章は面白いけど、ストーリーは何がウリなのか分からなかった。

「微笑みと微睡み」泉由良さん。
幻コレシリーズの中で1番か2番目くらいに面白い。
不思議な世界の描き方を、この作者にしかできないやり方でやっている。
うまい、とも、すごい、とも違う。オリジナルなものに形容詞はいらないのかもしれない。
終盤の現実世界に戻るところの「転」で物語が立体的に立ち上がり、
最後また陶子に還り美しく終わる。

幻視コレクション 終わりなき夢想の終焉

幻視コレクション 終わりなき夢想の終焉


赤色。

「柳の夢」赤井都さん。
ファンタジーもそうなんだけど、時代小説もうまく世界に入れない。
この作品も例に漏れず。
最初の一行目が弱くて入りにくい。

「ROC」業平心さん。
用語と言い回しが特殊すぎて、読めない。
読者に寄り添っていない感じが。

「解放区」仁司方さん。
最初の1ページに面白そうな描写がなくて、読めなかった。

「事務室の女王」深瀬駿さん。
同じく。うまく読めない。