小説・感想

いくつか小説を読んだので、感想を残しておきます。

金閣寺 (新潮文庫)

金閣寺 (新潮文庫)


■「金閣寺」(三島由紀夫
ファーストインプレッション。
読みにくい……。
こんな難しい書き方をせなあかんの??
ただなんやろう、正しく孤独になって、
自分の中にあるものを出した小説って感じがする。
だから、切実に心に届く。
正確に云えば、読みにくいのに内容がしっかり頭に残る。
読者やマーケットに媚びなくても
技術と精神性でこのレベルまで届くという一例。
オチが秀逸なのは、描写力と構成力の高さゆえか。


星の王子さま―オリジナル版

星の王子さま―オリジナル版


■「星の王子さま」(サンテグジュペリ、訳:内藤濯
ちょっと驚いた。
まず最初に思ったのは
「簡単な言葉を使って難しいことを書けるんだ。
難しい言葉を使って簡単なことを書けるんだ」
ということ。
大人にも子供にも読めるお話、として評価されてるはずだけど、
それもそのはず。
子供に大人の世界を見せることができるし、
大人に子供の世界を見せることもできる。
なんで「大切なものは目に見えないんだよ」のシーンばかり
フィーチャリングされてるんだろう?
他にもいいシーンいっぱいあるのに!
というより、いいシーン、とか、名言、とか
そういう通り一遍の区切り方では語れないほど
全体的によく出来ていると思う。
かっこうをつけずに、そのまんまに書けばいい小説はできる。
ただ、それは実はすごい難しいことだという話。


球形の季節 (新潮文庫)

球形の季節 (新潮文庫)


■「球形の季節」(恩田陸
300ページ以上あるとは思えない。
流れがきれいで、吸引力を失わない。
描写の美しさと、転換の妙ゆえだと思う。
ちゃんと世界を持ってる人が、ちゃんと世界を書けばこうなる。
それは誰にでもできることではない。
この世界から消えてしまいたくなるある意味で危険な作品。


哀しい予感 (角川文庫)

哀しい予感 (角川文庫)


■「哀しい予感」(吉本ばなな
実は姉弟じゃないネタと家出ネタかー
うーんあるある、みんなそういうの好きだよねー
という感じ……。正直。
ページ数が少ない点も、購買欲はそそるかなあ。
弥生と哲生の絡みだけが生々しく魅力的で、
肝心のおばとのやり取りが相対的に薄れてるのはいいのか?
真ん中あたりのキスシーンで山場を迎えてしまって、
最後のおばと話すシーンなんか減速気味。
ネタの選び方と雰囲気の出し方はうまいけど、
それじゃあただの売れ線の作家だよね、という印象。